人身事故の損害賠償支払基準
自動車損害賠償責任保険(共済)の保険金(共済金)等の支払基準
(平成14年4月1日以後に発生した自動車の運行による事故に関して適用)
損害賠償問題は、訴訟や調停の時以外は、原則的に当事者双方の十分な話し合いに基づく合意によって解決されるべきものです。 |
傷害による損害は、積極損害(治療関係費、文書料その他の費用)、休業損害及び慰謝料となっています。
「傷害による損害」の自賠責保険(共済)の保険金額は、120万円が限度額です。
積極損害
(1)治療関係費
応急手当費
応急手当に直接かかる必要かつ妥当な実費です。例えば、現場付近の家屋で被害者の応急手当を行った場合の畳、ふとん等の汚損のため支出した費用が含まれます。
診察料
初診料、再診料又は往診に係る必要かつ妥当な実費です。
入院料
入院料は、原則としてその地域における普通病室への入院に必要かつ妥当な実費とします。ただし、被害者の傷害の態様等から医師が必要と認めた場合は、上記以外の病室への入院に必要かつ妥当な実費です。
投薬料、手術料、処置料等
治療のために必要かつ妥当な実費です。
通院費、転院費、入院費又は退院費
通院、転院、入院又は退院に要する交通費として必要かつ妥当な実費です。
通常は、公共交通機関による実費とされていますが、傷害の部位、程度、距離、交通事情などによっては、タクシー代等必要かつ妥当な実費が認められます。
看護料
- 入院中の看護料
原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合には、1日につき4,100円です。
- 自宅看護料又は通院看護料
医師が看護の必要性を認めた場合に次のとおりとします。ただし、12歳以下の子供の通院等に近親者等が付き添った場合には医師の証明はいりません。
- 厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者
立証資料等により必要かつ妥当な実費です。
- 近親者等
1日につき2,050円です。
- 近親者等に休業損害が発生し、立証資料等により、a又はb-2の額を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とです。
諸雑費
療養に直接必要なある諸物品の購入費又は使用料、医師の指示により摂取した栄養物の購入費、通信費等です。
- 入院中の諸雑費
入院1日につき1,100円です。立証資料等により1日につき1,100円を超えることが明らかな場合は、必要かつ妥当な実費とします。
- 通院又は自宅療養中の諸雑費
必要かつ妥当な実費です。
柔道整復等の費用
免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用として、必要かつ妥当な実費です。
義肢等の費用
- 傷害を被った結果、医師が身体の機能を補完するために必要と認めた義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡(コンタクトレンズを含む。)、補聴器、松葉杖等の用具の製作等に必要かつ妥当な実費です。
- aに掲げる用具を使用していた者が、傷害に伴い当該用具の修繕又は再調達を必要とするに至った場合は、必要かつ妥当な実費とします。
- a及びbの場合の眼鏡(コンタクトレンズを含む。)に対する必要かつ妥当な額については、50,000円が限度です。
診断書等の費用
診断書、診療報酬明細書等の発行に必要かつ妥当な実費です。
(2)文書料
交通事故証明書、被害者側の印鑑証明書、住民票等の発行に必要かつ妥当な実費です。
(3)その他の費用
(1)治療関係費及び(2)文書料以外の損害であって、事故発生場所から医療機関まで被害者を搬送するための費用等については、必要かつ妥当な実費です。
遠隔地で事故が起きた場合の近親者の現地までの交通費や宿泊費、児童、生徒、学生の治療による入学の延期や留年の場合の授業料などが考えられます。
休業損害
a. 休業損害は、休業による収入の減少があった場合又は有給休暇を使用した場合に、1日につき原則として5,700円となっています。ただし、家事従業者については、休業による収入の減少があったものとみなします。
b. 休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内となります。
c. 立証資料等により1日につき5,700円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実費となります。
◆休業損害の限度額は、1日につき19,000円となっています。
◆上記cの実額算定は、ほぼ、次の方法で行うことになっています。
- 給与所得者の場合は、通常、過去3か月間の1日当たり平均給与額を基礎とします。現実に収入減のある限りは皆勤手当、残業手当、賞与などについても認められます。有給休暇を使用した場合にも休業損害を認めることになっています。
- 日雇い労働者などの場合は、次のような方法で算定します。
日給 × 過去3か月間の就労日数/90 × 認定休業日数
- 事業所得者などの場合は、具体的な立証資料によって個々に考えることになりますが、実際には、その収入減少額の把握が難しい場合が多いと思います。このような場合の普通の考え方は、次のようにされています。
(過去1年間の収入額-必要経費)×寄与率/365×認定休業日数
- 家事従業者の場合は、現実に家事に従事できなかったときは、収入の減少があったものとして1日につき5,700円を認めています。
家事従事者とは、年齢性別を問わず、現に主婦的業務を行っている者をいいます。- 無職者は、収入減がないものとして扱われます。
無職者とは、金利生活者、地主、家主、恩給・年金生活者、幼児、児童、生徒、学生、生活保護法の被保護者(非稼働者)、その他の無職の者をいいます。
慰謝料
- 慰謝料は、1日につき4,200円です。
- 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内です。
- 妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料が認められます。
後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等となっており、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び第2に定める等級に該当する場合に保険金額(限度額)が認められます。等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行われます。
■逸失利益と慰謝料等の合算額の保険金額(限度額)
1 自動車損害賠償保障法施行令別表第1
(高次脳機能障害に適用)第1級
第2級
4,000万円
3,000万円
2 自動車損害賠償保障法施行令別表第2 |
||||||
第1級 |
第2級 |
第3級 |
第4級 |
第5級 |
第6級 |
第7級 |
3,000万円 |
2,590万円 |
2,219万円 |
1,889万円 |
1,574万円 |
1,296万円 |
1,051万円 |
第8級 |
第9級 |
第10級 |
第11級 |
第12級 |
第13級 |
第14級 |
819万円 |
616万円 |
461万円 |
331万円 |
224万円 |
139万円 |
75万円 |
後遺障害は、医師の作成する後遺障害診断書に基づき、自動車損害賠償保障法施行令別表第1と第2の等級表を基準にして、労働力喪失の程度に応じ、14等級に分けて認定されます。
逸失利益
逸失利益とは、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額に該当等級の労働力喪失率と後遺障害確定時の年齢に対応する就労可能年数のライプニッツ係数を乗じた額となります。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りではありません。
(1)有識者
事故前1年間の収入額と後遺障害認定時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い方が収入額となります。ただし、次に該当する場合は、それぞれに掲げる額が収入額となります。
- 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な場合
事故前1年間の収入額又は全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
- 事故前1年間の収入額を立証することが困難な場合
- 35歳未満の人
全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
- 35歳以上の人
年齢別平均給与額の年相当額。
- 35歳未満の人
- 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
「事故前1年間の収入額」となります。この場合「事故前1年間の収入額」とは「退職前1年間の収入額」と読み替えます。
(2)幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
全年齢平均給与額の年相当額となります。ただし、58歳以上の人で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額となります。
(3)その他働く意思と能力を有する人
年齢別平均給与額の年相当額となります。ただし、全年齢平均給与額の年相当額が上限となります。
1 逸失利益の算式
年収入額×労働能力喪失率×
後遺障害確定時の年齢に
対応するライプニッツ係数=逸失利益
2 労働能力喪失率表
傷害等級
労働能力喪失率
傷害等級
労働能力喪失率
第1級
100/100
第8級
45/100
第2級
100/100
第9級
35/100
第3級
100/100
第10級
27/100
第4級
92/100
第11級
20/100
第5級
79/100
第12級
14/100
第6級
67/100
第13級
9/100
第7級
56/100
第14級
5/100
労働省労働基準局長通牒 昭32.7.2基発第551号による。
慰謝料等
- 後遺障害に対する慰謝料等の額は、該当の等級ごとに掲げる表の金額です。
1 自動車損害賠償保障法施行令別表第1
(高次脳機能障害に適用)第1級
第2級
1,600万円
1,163万円
2 自動車損害賠償保障法施行令別表第2 |
||||||
第1級 |
第2級 |
第3級 |
第4級 |
第5級 |
第6級 |
第7級 |
1,100万円 |
958万円 |
829万円 |
712万円 |
599万円 |
498万円 |
409万円 |
第8級 |
第9級 |
第10級 |
第11級 |
第12級 |
第13級 |
第14級 |
324万円 |
245万円 |
187万円 |
135万円 |
93万円 |
57万円 |
32万円 |
- 自動車損害賠償保障法施行令別表第1の該当者であって被扶養者がいるときは、第1級1,800万円、第2級1,333万円です。
- 自動車損害賠償保障法施行令別表第2の第1級、第2級、第3級該当者で被扶養者がいるときは、第1級1,300万円、第2級1,128万円、第3級973万円です。
- 自動車損害賠償保障法施行令別表第1に該当する場合は、初期費用等として、第1級500万円、第2級205万円を加算します。
死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、死亡本人の慰謝料及び遺族の慰謝料です。後遺障害による損害に対する保険金等の支払の後、被害者が死亡した場合、死亡による損害は、事故と死亡との間に因果関係が認められるときには、その差額が認められます。
「死亡による損害」の自賠責保険(共済)の保険金額は、3,000万円が限度額です。
葬儀費
- 葬儀費は、60万円です。
- 立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合、100万円の範囲で必要かつ妥当な実費です。
逸失利益
(1) |
逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に、死亡時の年齢に対応する就労可能年数のライプニッツ係数を乗じた額となります。 |
a. 有識者
事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い方が収入額となります。ただし、次に該当する場合は、それぞれに掲げる額が収入額となります。
- 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な場合
事故前1年間の収入額、全年齢平均給与額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
- 事故前1年間の収入額を立証することが困難な場合
・35歳未満の人
全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。
・35歳以上の人
年齢別平均給与額の年相当額。 - 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)
以上の基準が準用されます。この場合「事故前1年間の収入額」とは「退職前1年間の収入額」と読み替えます。
b. 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
全年齢平均給与額の年相当額となります。ただし、58歳以上の人で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額となります。
c. その他働く意思と能力を有する人
年齢別平均給与額の年相当額となります。ただし、全年齢平均給与額の年相当額が上限となります。
逸失利益の計算式
年収入額×(1-生活費控除率)×
死亡時の年齢に対応
するライプニッツ係数=逸失利益
(2) |
年金等の受給者の逸失利益 |
- 有識者
事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時年齢の年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額となります。ただし、35歳未満の人については、このほかに全年齢平均給与額の年相当額とも比較しいずれか高い額となります。
- 幼児・児童・生徒・学生・家事労働者
年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額となります。ただし、58歳以上の人で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額となります。
- その他働く意思と能力を有する人
年金額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額となります。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額となります。
(3) |
生活費の立証が困難な場合 |
死亡本人の慰謝料
死亡本人の慰謝料は、350万円です。
遺族の慰謝料
慰謝料の請求権者は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)とし、その額は、請求権者1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人以上の場合には750万円です。なお、被害者に被扶養者がいるときは、上記金額に200万円を加算します。
※死亡による損害額の算出例
(例1)単独不法行為の場合
男子 有識者 42歳(被扶養者あり) 慰謝料請求者3名
・葬儀費
60万円
・逸失利益
収入額
474,700円(月収)
生活費
35%を収入額より控除
ライプニッツ係数 14.094(就労可能年数25年)
474,700×12×(100-35)/100×14.094=52,185,290 約5,219万円
(端数千円以上を切り上げ、万円単位です。)
・死亡本人の慰謝料
350万円
・遺族の慰謝料
950万円(3名以上で、被扶養者あり)
したがって、積算額6,579万円(60+5,219+350+950)となります。
この例の場合、積算額が6,579万円ですから、自賠責(共済)保険の限度額3,000万円を超えた3,579万円は、加害者が任意保険の契約をしていればその任意保険から支払われますが、契約がなければ加害者の自己負担となります。
(例2)2台の車による共同不法行為の場合
男子 学生 18歳(被扶養者なし) 慰謝料請求者2名
・葬儀費
60万円
・逸失利益
収入額
415,400円(月収)
生活費
50%を収入額より控除
ライプニッツ係数 18.169(就労可能年数49年)
415,400×12×(100-50)/100×18.169=45,284,416 約4,529万円
・死亡本人の慰謝料
350万円
・遺族の慰謝料
650万円(2名で、被扶養者なし)
したがって、積算額5,589万円(60+4,529+350+650)となります。
この例の場合、積算額が5,589万円ですから、2台の自賠責(共済)保険の保険金額6,000万円から、5,589万円が支払われることになります。
死亡に至るまでの傷害による損害は、積極傷害〔治療関係費(死体検案書料及び死亡後の処置料等の実費を含む。)、文書料その他の費用〕、休業損害及び慰謝料となり、「傷害による損害」の基準が準用されます。
ただし、事故当日又は事故翌日死亡の場合は積極損害のみとなります。
重大な過失による減額
被害者に重大な過失がある場合は、下記の表のとおり、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、また、保険金額以上となる場合には保険金額から減額されます。
ただし、傷害による損害額(後遺障害及び死亡に至る場合を除く。)が20万円未満の場合はその額とし、減額により20万円以下となる場合は20万円となります。
減額適用上の
被害者の過失割合減額の割合
後遺障害又は
死亡に係るもの傷害に係るもの
7割未満
減額なし
減額なし
7割以上8割未満
2割減額
2割減額
8割以上9割未満
3割減額
9割以上10割未満
5割減額
受傷と死亡又は後遺障害との因果関係の判断が困難な場合の減額
被害者が既往症等を有していたため、死因又は後遺障害発生原因が明らかでない場合等、受傷と死亡との間及び受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合は、死亡による損害及び後遺障害による損害について、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額から、保険金額以上となる場合には保険金額から、5割の減額がされます。