変わりたいのに変われない、そういった体験は誰しもが持っているのではないでしょうか。
私の場合は、政策研究をまとめた記事を書きたい、と思っているのに、気づくと仕事や家事、家族の頼み事にばかり時間を使ってしまうという悩みがありました。
そういった普遍的課題に対して、発達心理学と教育学の権威が30年の研究とコンサルティング実践を通して得た知見をまとめたのがこの本です。
筆者は、人が直面する課題には2種類あると言います。
一つは「技術的な課題」、もうひとつは「思考様式を変える必要がある課題」です。
そして、最も大きな間違えは、今までの考え方、(仕事の場合は)仕事の仕方では対応できない状況に直面した時に、新たな「スキル」を身につけることで対処しようとすることだと言います。筆者は、「思考様式を変える必要がある課題」を解決するには、自分の知性の限界を知ることが必要だと述べます。
主にCEOなどを対象にしたコンサルティングのストーリーを通して、「知性の限界」―この本では「変革をはばむ免疫機能」と呼んでいます-をどのように解きほぐすかが分かりやすく示されています。
例えば、アメリカの大手製造業の新任部長の直面していた課題を整理したものは以下のように表されています。(筆者要約・抜粋)
1 改善目標 | 2 阻害行動 | 3 裏の目標 | 4 強力な固定観念 |
---|---|---|---|
・重要課題に集中するため、 ・権限移譲を行う ・自分と異なる部下のアプローチを容認する など | ・大量の仕事を抱え込んで、仕事以外のことを犠牲にする ・すぐに新しいことに手を出して仕事を増やす | ・他人に依存せず、万能でありたい ・自分を優先する利己的な人間だと思われたくない ・常に問題の解決策を見出したい | ・多くのことを上手に実行できなければ自尊心を失う ・自分を最優先にして行動すれば薄っぺらな人間になってしまう ・課題をやり遂げる方法を見出さなければ価値ある人材でいられなくなる |
筆者が強調するのは「目標を阻害する行動は意志の弱さが原因で起こるのではない」ということです。
そうではなく、自分の中の別の部分が望んでいる結果(3 裏の目標)を達成するうえで、極めて理想的で有効な行動が2の「阻害行動」なのだと。
この「阻害行動」を筆者は「免疫システム」と呼ぶのですが、なぜかと言えば、これが自己防衛のための機能だからです。
私たちの変化に対する不安は「先に待ち受けている脅威の前に無防備で放り出されるという感覚」から来ています。
しかし、これまでうまく働いていた不安に対する対処の仕方が、「思考様式を変える必要がある課題」に直面したときには、好ましい成果をあげるためのエネルギーをことごとく奪い取ってしまうのです。
では、上述の表で、あぶりだされた「4 強固な固定観念」を崩すにはどうしたらよいのでしょうか?
詳しくは、本書を読んでいただきたいと思いますが、この(誤った)固定観念に敢えて反したことを少しずつ実験していくことなどが挙げられています。
また、企業、病院や政府児童福祉部門など、組織改革についても豊富な事例が紹介されています。
なお、筆者は、この本に従って、自分自身の強固な固定観念(「組織や家族に貢献できていないと自分が尊重されない」)を書き出した時点で、「いや、そんなはずはない。そんな組織や家族があったら、こちらからご遠慮すればいい。」と思い、かなりすっきりしました。そして、いまやってみたいと思っていた書評を書いております。
と、ここまで書いて、これって実は会社組織に舞台を移した単なる認知行動療法なのでは…という気がしてきました。
そこで、次回は認知行動療法の名著を紹介したいと思います。