有機農産物の品質等
○ 有機農産物の味、品質、栄養価 |
(1)1999年までの研究成果概説(日本食品科学工学会誌第46巻6号、1999年)
農林水産省農業研究センターの堀田博さんは、有機質資材を投入して栽培した農産物や、有機・無農薬と減農薬・減化学肥料栽培による農産物について、品質に関する試験研究報告69編を集め、次のように結果を概括しています。
<栄養成分>
有機栽培等の農産物と慣行栽培農産物との違いは、成分的な差として捉えきれていず、普遍的な結果は出ていない。有機農産物の品質向上は糖分の増加とする説もあるが、それほど単純ではない。
<色、形、味、香り、硬さ等>
有機栽培等の農産物は、慣行栽培農産物に比べて良い、差がない、悪いと、調査した作物や品質要素によってまちまちの結果が出ており、同じ作物でもしばしば違う結果が出ている。報告の数としては、「良い」と「差がない」が多いが、良い場合であっても、慣行栽培農産物との差は大きくない。また、病害虫痕や生育不良による悪い外観が有機・減農薬農産物の特徴だと思われたこともあるが、実際にはそういうことはない。
<機能性成分>
有機栽培等の農産物の機能性成分は、報告によって、慣行栽培農産物より多い、差がない、少ないと違う結果が出ている。
<流通・加工特性>
有機栽培等の農産物の日持ち性は、作物により慣行栽培農産物に優るかまたは慣行栽培農産物と差がないという結果が出ている。
(2)JAS規格(2000年制定)の有機農産物の味、品質、栄養価
平成12(2000)年にJAS法が改正され、有機農産物と表示するには、播種(植え付け)前2年以上にわたって農薬や化学肥料を使用せず、十分な土づくりを行ったこと等を認証機関によって認定された圃場で生産した農産物であることが条件となりました。このような改正JAS法のもとで、次のような研究事例があります。
<JAS有機農産物研究その1>(早川泰子:ポラン通信2001年3,9月号)
管理栄養士の早川泰子さんは、有機農産物を流通販売する全国ネットワーク組織「ポラン広場」が扱っている有機栽培野菜について、慣行栽培野菜と比較しました。その結果、1.形態と重量については、有機栽培のほうが大きく、重いことがあるが、差がないこともある、2.硬度については、有機栽培のほうが概して硬くしっかりしているが、ゆでると柔らかくなり、作目によっては慣行栽培より軟らかくなる、3.色については、有機栽培のほうが濃色で、葉緑素の含有率が高い、4.硝酸態窒素は全体として市販野菜の50%だが、なかには鶏糞を肥料の主体にしている場合などで濃度の高いものがある。
<JAS有機農産物研究その2>(井上駿・有田俊幸・森良子:有機農業研究年報3、2003年)
都立食品技術センターと有機農業推進協会が、17戸のJAS有機農家の2001年産の各種野菜を分析した結果、
1.ビタミンC含量が相当高く、食品成分表の数値を上回ったもの60点、下回ったもの20点、変わらなかったもの
6点であった(49品目、104点分析)。
2.硝酸態窒素は顕著に低く、食品成分表の数値を下回ったもの57点、上回ったもの2点であった(44品目、97点
分析)。
3.鉄分、カルシウム、灰分については、食品成分表に比べてそれほど顕著な違いはなかった(9品目、11~22点分析)。
<JAS有機農産物研究その3>(赤堀栄養専門学校の齋藤進氏ら、Bio Organic Press 2002年12月)
有機農産物のビタミンC増加のメカニズムとしては、微生物によって土壌中のビタミンC含量が高まるとともに、土壌の団粒構造発達による根張り促進や、有機物からのゆっくりとした養分供給が植物自体のビタミンC生成量を高めることによると考えられた。
このほか、低水分条件が糖度を上昇させるとともに旨味値を上昇させることや、低窒素状態が糖度の上昇と硝酸態窒素含量の低下をもたらすことなどが考えられた。