水産研究科(試験研究だより 「海藻のはなし3」)

 

● 試験研究だより ●

水産研究科

 
海草のはなし 3
 
○食物連鎖と食物網

 陸上と同じように海の中でも、植物が太陽の光をエネルギー源として二酸化炭素と水から光合成を行い、そこで作られた栄養を草食動物が利用し、それをさらに肉食動物が利用する、という関係が成り立っています。このように連続した「食う・食われる」の関係を「食物連鎖(しょくもつれんさ)」といい、さらに、同じ場所にすむ生物たちの間でさまざまな食物連鎖が複雑にからみあい、ちょうど網の目のようになった状態を「食物網(しょくもつもう)」といいます。
 植物のように光合成などによって自分で栄養を作り出すことができる生物のことを生物学では「生産者」と呼びます。それに対して生産者が作った栄養を利用して生きる生物は「消費者」と呼ばれ、その数は生産者が作り出す栄養の量によっておおむね決まってしまいます。
 海洋の大部分を占める外洋域ではケイ藻や渦ベン毛藻などの植物プランクトンが主な生産者となりますが、単位面積あたりの光合成の量は決して多くはなく、特に植物プランクトンの成長に必要な成分が乏しい熱帯の海ではプランクトンによって作り出される栄養は大変に少ないことが知られています。これに対し、沿岸の藻場で主な生産者となるのは海草などの大型植物で、その光合成の能力は高く、例えば海草・アマモの藻場で行われる光合成の量は、同じ面積の陸上の森林が行う光合成の量に匹敵すると言われています。
 

○生き物たちの餌・デトリタス

 ただ、コンブやホンダワラなどの海藻に比べてアマモやスガモなどの海草は組織が硬く消化も大変なため、生きている海草の葉をそのまま食べる動物はあまり多くありません。南の海にはアマモを主な餌とするジュゴンなど草食性の海獣類もいますが、北海道の藻場ではヘラムシやウニの仲間が例外的に生きた海草をかじることがある程度です。
 それでは、藻場の生き物たちはどうやって海草を餌として利用しているのでしょうか。海草の葉が枯れて海底に沈むと、やがてその葉はバクテリアなどによって分解され、もやもやとした懸濁物や沈殿物へと変わっていきます。
 このもやもやを「デトリタス」と言い、この状態になった海草は吸収や消化が容易なため、アミ類・ヨコエビ類のような小型甲殻類やゴカイの仲間など魚類の重要な餌となる生物によって広く利用されるようになります。また、水産上重要な種の中にも、エビ類の多くや二枚貝・ナマコ・ホヤなどこのデトリタスを餌とする種が少なくありません。 このように落ち葉や生物の死骸を出発点とする食物連鎖を「腐食連鎖(ふしょくれんさ)」と呼び、海草藻場の多様な生物群集は、主にこのタイプの食物連鎖によって支えられていることが知られています。 (つづく)


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夏の終わりのスガモ場。白く濁って見えるのが、スガモの葉などが分解してできたデトリタス。(泊村・茅沼。水深3m)

 
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海草・スガモを生産者とする食物網。生きた海草そのものではなく、スガモなどの葉がバクテリアによって分解されたデトリタスが魚の餌生物によって主に利用されます。
 
(北海道原子力環境だよりVol.60 2001.9抜粋)

 



 
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