北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(羽幌2)

道立羽幌病院

副院長 佐々尾航 医師 医師

2022.06.07 記事

プロフィール
札幌市出身。2006年自治医科大学を卒業後、北海道立羽幌病院、利尻国保病院等への勤務を経て、2017年から北海道立羽幌病院副院長。
資格
日本病院総合診療医学会(特任指導医)
総合診療専門研修(特任指導医)
日本プライマリ・ケア連合学会(指導医・認定医・北海道ブロック副支部長)
日本消化器病学会(消化器病専門医)
日本消化器内視鏡学会(消化器内視鏡専門医)
日本内科学会(総合内科専門医・指導医)
自治医科大学臨床講師
認知症サポート医
自治医科大学消化器内科非常勤医員・研究生
医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修修了
趣味
旅行
座右の銘・モットー
夢は見るもの果たすもの

総合診療専門研修プログラムで
限られた人材で病院機能を維持

過疎化、高齢化という課題を抱えた羽幌町。道立羽幌病院はセンター病院としての機能を備える一方で、地域密着の医療を展開しています。スタッフの人材確保が難しい状況が続く中、医師の研修制度を充実させて人材を集め、病院機能を維持していくため、総合診療専門研修プログラムを行っています。佐々尾航副院長は、総合診療医の育成を進める一方で、地域に根ざした医療として、フレイル外来などさまざまな取り組みを行っています。総合診療の実際や取り組み、地域医療の中での総合診療医について話してもらいました。

早くから3分診療に疑問
かかりつけ医を持つことの重要性を協調

佐々尾副院長は、高校生の時から「3時間待って3分診療」という当時の医療の課題に疑問を感じていました。

「フリーアクセスである日本の医療制度はいい面もあるが、どうしてもどこかに偏りが生じてしまいます。最初からかかりつけ医を持って、しっかりと診てもらうことが重要と考えていました」。それを論文にまとめて当時の小渕内閣の懇談会が募集した国民からの提言に応募したところ、懇談会の最終報告書の中に盛り込まれました。「自分の考えが間違えていないと自信を持つことができました」。

こうした経緯もあって、家庭医療や総合診療を志すようになり、自治医科大学に入学。卒業後は札幌医科大学附属病院と市立函館病院で初期研修を行い、医師となって3年目に一度、道立羽幌病院に1年間勤務しました。その後、利尻島で離島における地域医療を学びました。消化器内科をベースとした総合診療医を目指していたことから、母校である自治医科大学に戻り、専門医療を習得。2年後の2013年に再び道立羽幌病院に戻り、自治医科大学の義務年限である9年間を過ぎた今でもこの道立羽幌病院に勤務しています。

「消化器内科自体に楽しさも感じていたので、大学をはじめとした総合病院で都会の診療所で消化器内科医としてやっていくことも考えましたが、北海道庁からの要請と派遣等でしっかりと人員確保をしてもらえるということもあって、道立羽幌病院に残る決意をしました」。

地域で理想の総合診療医を目指す中で、さまざまなサポート体制が重要と佐々尾副院長は指摘します。「全て自分の肩にのしかかるというのであれば、誰もが地域医療に足を踏み入れるのをためらうはずです。また、医師が1人で地域医療を担えたとしても、それを次に引き継げる体制でなれば、結局は地域医療が崩れてしまいます」。

佐々尾副院長は、そういった面では、北海道庁のバックアップもあって、安心して道立羽幌病院を勤務先として選べたと振り返ります。

多職種で地域を支える
さまざまな連携・バックアップが必要

病院での総合診療というと、人の身体を総合的に診るというイメージになりがちですが、患者の家庭環境であったり、これまでの生い立ち、地域のサポートなども含めた社会的背景までも含めてみることが総合診療医に求められると、佐々尾副院長は説明します。

総合診療医として、患者の背景も含めてみていくことは簡単なことではなく、医師1人では難しい。「地域連携室など、病院には地域とつながる部署があります。こうした部署を通して、看護師、社会福祉士、ケアマネジャーなどさまざまなスタッフが患者やその家族と話し合い、治療をどう進めていくのか、退院後、どのような生活を目指していくのか、それぞれの専門的な知識や技術を生かして情報を収集し、時には私の方からさらに掘り下げて聞いてほしいとスタッフに頼むこともあります」。

  • 多職種で地域を支える<br />さまざまな連携・バックアップが必要

道立羽幌病院は、道立でありながら、立ち位置は町立病院と同じ部分も多いことから、地域の医療や介護サービスとの地域包括ケアシステムを構築していくにあたり、積極的に多職種連携をサポートしていくことも大事だといいます。

こうした中で、道立羽幌病院では2018年11月にフレイル外来を開設しました。地域からフレイルと思われる患者の紹介を受け、リハビリや栄養指導、認知機能の評価などを行い、医学的に何か介入できる方法を医療者側から探り、予防も含めて早い段階からさまざまな課題に対処することで、できる限り地域で機能維持を図っていくことを目指しています。また、出前講座や町内会の会合などで情報を発信するとともに、普段から地域住民や医療・介護従事者と顔の見える関係づくりを進め、積極的なアプローチで安心して暮らせる地域づくりにつなげています。

長い時間をかけて
住民にも総合診療が浸透

人口減少、高齢化などさまざまな課題を抱える中で、地域医療を継続していくためには、医療、介護従事者との連携だけでなく、自治体や住民の理解と協力も重要な要素となります。

糖尿病性腎症重症化予防や新型コロナウイルス感染症のワクチン接種などは、行政と病院の連携がカギとなります。常日頃から顔の見える関係づくりで、こうした町の取り組みについても互いに円滑な協力関係を築いています」。

佐々尾副院長が道立羽幌病院に赴任した10年前は、住民から整形外科医や産婦人科医の要望が出ていましたが、総合診療について住民も理解し、地域に根付くころにはこうした要望はほとんど聞かれなくなったといいます。

また、このようなこともありました。ある高齢患者が他施設から入院した際、最初から3カ月程度診てくださいと要望されました。高齢の場合、3カ月も入院すればADLが大きく低下してしまいます。

「早い段階からどうすれば生活できるのか、先を見越して療養の計画を作らなければなりません。最初から入院期間ありきではないのです。こうしたことを医療・介護事業者、家族と話し合い、進めていくことが大切です」。

  • 長い時間をかけて住民にも総合診療が浸透

佐々尾副院長は総合診療医も全ての領域を得意とする訳ではない、自身でそのことをしっかりと認識して、周囲と協力し合って医療を展開していくことが必要といいます。「地域での総合診療は、行政、他の病院や介護事業所、住民などと話し合う機会があります。なぜ、この地域ではこうした考えなのか、安易に否定するのではなく、地域の歴史や住民性も考慮して、自分の主張を押し進めるのではなく、協調できる部分を探っていくよう地域全体を見る力とコミュニケーション能力も必要でしょう」。

地域ごとの総合診療
医療から地域をよくしていきたい

地域ごとにさまざまな事情があり、風土や状況が異なります。ただ医療だけを行っていきたいというのではなく、医療から地域をよくしたいと思う人にとって、総合診療はやりがいのある仕事です。

現在、3人の専攻医が道立羽幌病院で研修を実施しています。さらに、年間10人以上の臨床研修医が1カ月の地域研修に訪れています。専攻医は2年間の研修期間で驚くほど成長していくといいます。

「全てを1人でできなきゃいけないと思い込む必要はなく、自分のできる範囲のことを地域にしっかり還元できれば、総合診療医として地域に貢献できるので、そういった領域に興味を持っている学生に向いています」。

佐々尾副院長は、患者の立場になって考えることだけでなく、医師の指示を受けるコメディカルスタッフの立場になって考えることも重要だといい、道立羽幌病院ではスタッフ間の距離が近く、顔の見える関係づくりがしやすいといいます。

「地域医療は難しい面もたくさんありますが、さまざまな研修プログラムを用意しているほか、ワークライフバランスにも配慮しています。

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