道東勤医協釧路協立病院
副院長、内科科長 石川 晶 医師プロフィール
出身
埼玉県坂戸市
略歴
- 2008年 旭川医科大学医学部を卒業
- 2008年 勤医協中央病院 初期研修
- 2010年 道東勤医協釧路協立病院 総合診療専攻医
- 2013年 道東勤医協釧路協立病院 内科・総合診療科
- 2016年 道東勤医協釧路協立病院 内科・総合診療科 科長
- 2020年 道東勤医協釧路協立病院 副院長
資格
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医
日本内科学会専門医
日本内科学会JMECCインストラクター
日本医師会認定健康スポーツ医
趣味
旅行
座右の銘・ モットー
一瞬を大切に
釧路圏域の医療・介護・保健・福祉の現状
釧路圏域は雄大な自然に恵まれた地域で、釧路・根室市を含む二次医療圏の面積は14,541平方キロメートルと、東京都(2,194平方キロメートル)の約6.6倍の広さです。
釧路市は地域の中核都市であるにもかかわらず、慢性的な医師不足の問題を抱えており、開業医も高齢化が進んでいます。
しかしながら、地域からの医療要求は高く、症例も豊富、地域経済は低調で高齢者や貧困などの社会的問題を抱えた患者さんもたくさんいます。
実際の医療現場では、ご高齢の方、子育て中の方、赤ちゃんなど住民の皆さんの中には、十分に医療のアクセスが受けられない人もいるのを感じます。
医師不足の原因としては、札幌圏に医療が集中してしまい、釧路の方には医科大学もなく、若い人が集まる機会もあまりないので、便利な札幌の方に人が出てしまったら、なかなか地方都市に人が戻ってきにくい状況にあると思います。
課題を解決するために、医師育成や教育のシステムの整備など、その地域で学べる機会の必要性を感じます。
総合診療医を目指したきっかけ
私が医師を目指したのは、高校生の頃です。当時は総合診療医や家庭医という言葉を耳にしたわけではなく、なんでも相談できる町医者になりたいと思ったのが始まりです。後からそのようなことを実現できる、総合診療医・家庭医という存在を知りました。
若い頃は動物園の飼育係や芸術家、英語の教師になりたいと考えた時期もありましたが、最終的には人との関わりを重視する医師という職業を選びました。
私の地元の埼玉がとても田舎で、釧路の4分の1以下ぐらいしか人がいないところで過ごしてきたので、医者をやるなら小さなところで、何から何まで相談に乗って担当するというような形が、自分の初期のイメージです。
地元ではなく、北海道で働きたいと思ったきっかけ
私は旭川医科大学に入学し、研修は札幌で受けました。研修の2年間は札幌で働いていましたが、2年目の10月ぐらいまでは地元の埼玉に戻る気持ちもありました。
しかし、その10月に地域医療研修という1ヶ月の研修期間で、たまたま釧路に来る機会があり、地域住民とお話ししたり、医療過疎の状況を見たりしました。
私はその当時「ここ(釧路)の人たちには何か武者震いがする感覚があった」と言ったのですが、とてもやりがいを感じた研修期間でした。
先ほども話したように、もともと人がとても少ない田舎町で育ったので、人から求められたり、密接なつながりがあったりする中で活動することに興味を持っていたため、その印象を強く受けた釧路で働いてみようと思いました。
それからもう13年ぐらい経ち、すっかり「釧路の人」になっています。
総合診療医の役割とやりがい
今の私の働き方は、医師を目指した当初のイメージに近く、訪問診療・入院医療・慢性疾患外来・救急外来・診療所外来の5刀流です。
患者さんが困った時に、私の顔が浮かぶと嬉しい、そういう相談相手でありたいです。分野的にも、地域的にも、ニーズが非常に高いのでやりがいがあります。
日常的には、仕事をしていて、ありがとうとか、よかったとか、安心したと言われる場面はもちろん嬉しいですね。
また、私がこうやってここで13年働いてきた中で、この地で働いてみようかなと言ってくれる後輩たちが増えてきてくれたことが印象的です。
後輩たちが、私が体験したことや、私が見てきた景色などを共感してくれたり、こういうことをしてみたいなとか、自分でこういう風にできるんじゃないかなとか、いろんな可能性を考えてくれたりしています。
一般的に医療過疎の地方は医師が減っていく中、釧路協立病院の総合診療科では仲間が増えてきているというのがとても嬉しいです。
地域における病院の役割
体調が悪いときや相談したいときに、どの病院の何科にかかったら良いのかを市民の方が適切に判断するのは難しい場合があります。そのようなとき、複数の病院にかかって、たくさんの薬を処方されてしまい、結局体調が改善しない場合もあります。
当院は総合診療医が常駐しているコミュニティーホスピタルなので、日々の相談ごとにのりやすく、必要があれば適切な専門家にも紹介することが可能です。そうすることで、他の専門医が専門分野の医療に集中しやすくなるという利点もあります。
若手医師の育成にも力を入れています。釧路協立病院の一番の特徴は、医療過疎の地域の中で、総合診療医・家庭医以外の資格を持つ指導医が4人いることだと思います。基本的にはマンツーマンでその後輩指導にあたります。
他には、総合診療がこの地域になく、困っても相談できるところがないので、そのような方々が来る場としての役割もあります。
地域の中では、総合診療医に対する啓発活動や、健康活動にも積極的に取り組んでいます。
指導体制について
後輩指導については、現在、4人の指導医がおり、誰に相談しても良いフォロー体制ができています。それぞれ慢性疾患外来、救急外来、病棟の入院患者さん、精神面を含め、研修全般を4分野にかけて、それぞれで指導医が相談相手を決めているので、困ったことがあれば、各分野でポイントごとに細かくフィードバックをしながら進めています。
また、住民説明会や、住民健康相談会のようなところにも積極的に出てもらい、地域住民と接点を持つようにしています。なるべく院内にとどまらずに地域の中で、研修医を育てられるような取り組みは積極的に実施しています。
情報発信への取り組み
総合診療医が必要な地域にもかかわらず、ここに専門医は5人しかいません。そこで、仲間を増やすために去年からインスタグラムなどのSNSを開始し、まずは知ってもらうこと・興味を持ってもらうことから始めています。実はSNSはあまり得意ではなくて、かなり苦労しながら更新しています。
自分たちが行っていることを学生さんや研修医に見てもらいたいという気持ちもありますが、地域住民や北海道内の人にも、私たちの取り組みの魅力や、地域で頑張っていること、総合診療とはどのようなことをするのかというのを、色々な形で発信できるのではないかと思っています。
例えば、地域の勉強会や子どもたちへの職業体験などを通して、地域住民にも情報発信を続けています。あとは、近隣の町に呼ばれて地域の方々との連携の機会や、地域勉強会にも出席させてもらう機会があったら、少し宣伝してきます。情報発信は、広い視野で続けていきたいと思っています。
地域医療を進める上での課題
先に述べた通り、地域で総合診療・家庭医療が広く認知されていないのが1つ目の課題です。私たちは、病気だけではなく、背景を含めて人を診る、家族も診る、地域も診る専門職なので、地域全体が元気になっていく活動ができたら良いと思います。
2つ目の課題は総合診療医・家庭医が少ないことです。広域な地域をカバーするにはより多くの専門医が必要なので、ぜひ専門医が増えてほしいです。
課題を解決するために、総合診療医は色々な切り口で働きかけることができる仕事だと思っています。
学校体験では、子供たちがこのような大人がいるとか、こういう医療機関があるのだと知ってもらう機会になればと思っています。病気もなく、普通に学校に行って部活をしているような子供たちに、今の閉塞的で人との繋がりが取れないような社会の中で、こういう大人がいるなら世の中捨てたものじゃないなとか、安心だなと感じてもらうきっかけになればと考えています。また、病院や総合診療について理解してもらうことで、将来的な不安を減らしたり、暮らしやすくなったりすることもたくさんあると思います。
例えば、御高齢の患者さんを診るときに、その御家族に自分たちの診療の様子を見てもらうことで、自分も年老いたらこのような医療を受けられたら安心だと感じてもらえるかもしれません。知らないことで不安になったり、取り越し苦労をしたりすることもあると思うので「そばにいますよ、安心してください」と伝えることが、それぞれの分野で、各々ができればいいのかなと思っています。
私たちが何か少し働きかけることで、少しでもその地域を良くすることになったり、住民が暮らしやすくなったりすることに繋がっていってほしいと、診療しながらも、診療の外でも思っています。
医学生や若手医師たちへのメッセージ
総合診療医はとても裾野が広い仕事です。この分野に興味を持ってくれる人であれば、僕はみんなウェルカムだと思います。
そもそも総合診療の分野に興味を持って、患者さん個人だけじゃなく、広く家族も、そして地域さえも良くしていきたいと思って足を踏み入れて興味を持ってくれたなら、それ自体がもう尊いことなのではないか、医者として、その仕事をさらに突き詰めていこうと一緒に思ってくれるだけでも、すごく嬉しいことだと思います。
総合診療医は、なかなか一人前になったことが実感しづらい科だと思います。例えば、手術の技術、患者さんを診た数、薬の扱い方など、ハードルや指標があれば、とても分かりやすいですし、じゃあそれで明日も頑張ろうというようにレベルアップを実感できるかもしれないのですが。
例えば「眠れないんです」という患者さんが来た時の対応も千差万別です。眠れないのは薬が切れているという人もいれば、亡くなりそうな奥さんのことが心配で眠れないという人、実は朝寝ているから夜眠れないという人など様々です。
「眠れない」という1つを取っても、とても深く、言葉にすると同じ症状でも実際には同じ症状を二度と診ることがない、とても難しい分野です。
そのため、本当に自分が向いているか、なんだか思っていたのと違うかというのは、実際に働いたり、研修を積んだりしてから感じる分野だと思います。
研修時に、そのような壁にぶつかる人がいても大丈夫です。そのように問題と向き合っていることが、そもそもよく頑張っている証拠です。
人は求められることでやりがいを感じ、より力を発揮できます。
総合診療・家庭医療が十分に浸透しきっていない地域だからこそ、あなたの新しい発想・力・魅力が地域で求められています。
地域であなたを育てていく土壌がここにはあります。ぜひ、釧路で一緒に研修しましょう!
石川副院長は、手塚先生が釧路協立病院で研修を受けたときの指導医でもありました。手塚先生にも影響を与えた石川副院長。
若手の育成に力を入れるだけではなく、多忙な中、地域への啓蒙活動や情報発信にも力を入れており、地域と繋がりながらみなさんの生活を豊かにするための総合診療に向き合っていられるように感じました。
座右の銘は「一瞬を大切に」。「この仕事をしていると、1分1秒で患者さんの状況が変わることもある。また、命に向き合うことも多く、お互いの重要な時間を共有する。それをありがたく思ってこの言葉を選んだ」とのこと。
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