北の総合診療医 - その先の、地域医療へ | 倶知安厚生1

倶知安厚生病院Kutchan-Kosei General Hospital

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2019.03.14 記事

プロフィール
北海道恵庭市 出身
2004年 北海道大学医学部を卒業後、
帯広厚生病院、北海道大学病院、苫前厚生病院で研修後、
2008年 北海道大学大学院医学研究科博士課程、2012年 同博士課程を修了。
2012年4月から倶知安厚生病院に勤務。
資格
博士(医学)、日本プライマリ・ケア学会プライマリ・ケア認定医・指導医
日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医
趣味
鉄道旅行、北海道コンサドーレ札幌の応援

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国際リゾート地ニセコで地域医療を担う
病院型総合診療

国際的なリゾート地でもあるニセコリゾートを抱えるまち、倶知安町。農業はジャガイモの産地としても有名で、蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山とニセコ連邦がそびえる人口約1万5千人のまちです。

倶知安厚生病院は、昭和20年に町立病院から移管する形で北海道厚生連の前身団体である北海道農業会が開設し、現在はJA北海道厚生連の病院として、総合診療や整形外科を中心とした地域医療を積極的に展開しています。

そこで、総合診療医のトップとして活躍する木佐主任医長をはじめ、医療スタッフの方に、日々実践している総合診療科との協働についてお話を伺いました。

総合診療医として働く喜び

総合診療のような働き方は医師になったときから頭にあった
患者さんを幅広く診ることができる魅力

1月、病院が最も多忙となるこの時期に、貴重な時間を割いて応じてくださったのは、総合診療科主任医長の木佐先生。

木佐先生は、北海道大学医学部を卒業後、帯広厚生病院や北海道大学病院、苫前厚生病院などを経て、2012年4月から現在の倶知安厚生病院に勤務しています。

まずは、総合診療医の道を選んだ理由を聞きました。

「総合診療医の道に進んだのは、もともと幅広く診ることが好きだったことと、社会的な問題にも興味があったことです」。

はじめは公衆衛生医師、保健所勤務などと迷った時期もありましたが、患者さんを幅広く診る事ができ、社会的な問題との接点を持てる事に魅力を感じ、一番しっくり来たのが総合診療の領域だったそうです。医師になったときから、総合診療医のような働き方が頭にあったと教えてくれました。

地域の人たちに根付く総合診療科

多忙な毎日を送っている木佐先生。やりがいについてお聞きしたところ、

「仕事のやりがいは、『総合診療があって便利だった』とか、『何を相談しても乗ってくれるからありがたい』と言われるところでしょうか」。

総合診療は幅広く診るのが基本。地域の診療所にお手伝いに行っても適応しやすいそうです。

「地域の保健師さんなどの困り事に対応して感謝されたり、紹介元の医療機関から続けて患者さんを紹介していただく。こうしたことが地域の中で自分達の仕事が役に立っていることなのかな」。

との言葉からも、地域の中に倶知安厚生病院の総合診療科が根付いていることがうかがえます。

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田舎から都市部まで仕事があるので
ライフスタイルによって適応しやすい

総合診療の魅力や特徴について聞いてみると、「たとえば、高度な医療設備が必要な診療科であれば、都市部の中でも働き場所が限定されてしまう可能性がありますが、総合診療医は地方がよければ地方に、都市部には都市部なりの総合診療の仕事がありますから」とのこと。

「1人で開業する道もあれば、私たちのようにグループで仕事をすることもでます。色々な働き方の選択肢があるのが総合診療なのかなと思います」。

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倶知安厚生病院における総合診療科の活動について

病棟、外来と救急など幅広く対応

地域センター病院としての重責を担っている倶知安厚生病院。総合診療科には、1日に100人から120人位の外来の患者さんが受診している他、救急車で搬入される患者さんの多くを総合診療科で受けています。

総合診療科には現在11人の医師が在籍し、医師3年目の専攻医が3人と、それより経験を積んでいる医師が6人という体制です。

それだけに、倶知安厚生病院では若い医師にとって「いろいろな意見を聞いたり相談できる環境が整っていて、またCT、MRI、血液検査など、ある程度の検査診断機器が揃っていて技師さんがいること。病棟、外来、救急と様々な患者さんを総合診療科で経験できること」が大きなメリットになっています。

訪問診療や産業医、診療支援なども行う

総合診療科の具体的な業務内容は、外来(新患)、救急、透析、人間ドックや巡回検診。週に1回、訪問診療や特別養護老人ホームの嘱託医も担当。地域から頼まれた場合には産業医としての仕事も行っているほか、周辺の町立診療所などの先生が出張などで不在になる場合、診療支援も行っています。

「現在、訪問診療の患者さんは1か月に20人ほどです。私ともう1人の医師が主に担当し、それ以外の医師でも今まで診ている患者さんが在宅になった場合には、そのまま訪問診療を担当してもらっています」。

患者さんの病態は認知症、脳卒中などで歩行や日常生活動作が困難になり家で生活されている方、あるいは老衰の方が半数位。そして、もう半数はがんの末期の方。

「がんの末期で、移動が大変になった場合など、中には入院を希望される方もいますが、できるだけ住み慣れた家で最期まで過ごしたいという方も結構おられるので、そうした要望にも応じています」。

診療科を迷った場合には、まず総合診療科が診る

骨折であれば整形外科、消化器の手術が必要だから外科というように、診療科が決まればよいですが、「動けなくてつらい」「どこの調子が悪いのかわからない」といった患者さんの治療の方針を決めるときに、どの診療科に入院させるのか議論をしなくて済むのが総合診療科だと木佐先生は話します。

「診療科が決まらないときは『迷ったら総合診療科』と、診療科の分け隔てなくできるのがひとつのメリット」。

“僕らが診なかったら誰も診る人がいない”と考えると、総合診療医の存在は大きいと感じるのだそうです。

「気をつけているのは、患者さんを断らないようにすることと、身の丈にあった診療をすること。専門医が診たほうが良い場合は院内の専門医の先生や、小樽市、札幌市の医療機関に、的確に紹介することを実践しています」。

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病院のスタッフや設備の支えが患者さんや地域の安心感に

倶知安厚生病院は入院機能を持ち、24時間救急体制をとっています。これはやはり患者さんや地域の方にとってのメリットでもあり、安心感につながっているのではないでしょうか。この質問に木佐先生は、

「これには病棟の看護師さんがきちんと仕事をしてくれていること、救急は外来の看護師さんが交代でシフトを組み対応してくれていることが大きいです。病院の設備や仲間に守られているからこその信頼感を感じています」。

自分達だけではなく、病院のスタッフや設備などに支えられて仕事ができていることが、地域での患者さんの安心感につがっていると語ってくれました。

総合診療科で地域包括ケア病棟も担当 退院支援・地域との調整役も

総合診療科の幅広い役割として、木佐先生は次の様な例を挙げてくれました。

「他の診療科の医師が少ないということもありますが、たとえば大腿骨頸部骨折で整形外科に入院し、手術をして、在宅復帰までリハビリをしながら環境調整も全部、整形外科の先生が担当するのは大変です。

このようなケースでは、術後の合併症がないところまで整形外科で担当してもらった後、総合診療科の地域包括ケア病棟に転棟してもらい、総合診療科で環境調整しています。地域とのやり取りも総合診療科の役割です。病棟の看護師さんを中心に関わってもらい、ケアマネジャーさんとのサービスの調整や、患者さんが飲んでいる内服薬の調整などをします。そして退院あるいは、地元のかかりつけの先生にお返しするというのを、総合診療科が行うケースもあります」。

小樽市立病院との遠隔画像診断システムも活用

他の医療機関との連携も総合診療科の重要な役割です。たとえば、脳梗塞や脳出血で小樽や札幌の病院に入院した患者さんが、退院して地元に帰るとき、「患者さんが直接自宅に帰ることが難しい場合は、当院に転院してリハビリを受けながら環境調整をして、自宅に帰っていただくこともしています」と、例を挙げて説明してくれました。

また倶知安厚生病院には、迅速な診断を行うための医療連携システムがあります。

「現在、小樽市立病院の脳神経外科の先生のご厚意で、当院との間で遠隔画像診断システムを活用しています。救急車で搬入された患者さんの画像を送り、『当院で治療しても小樽にお願いしても、やることは変わらない』と判断された場合には、ご家族に『どうしますか?』とお聞きするようにしています」。

そうした場合に、ご家族がお見舞いしやすいからと、倶知安厚生病院への入院を希望されるケースもあるそうです。

多職種連携が特に大事

多職種連携は医療・介護にとって今や欠かせませんが、様々な業務の中でも特に大事にしていると木佐先生は話します。

「医師以外の職種が、必ずしも充足しているわけではありませんが、医師の多くは手一杯になっていることが多いので、医師でなくてもできることは、それぞれの職種でこまめにやってもらっています。得意な部分は得意な人に任せることも大事です。ただし、情報交換は絶やさずやることが大切だと思います」。

地域から持ち込まれる問題を、ちゃんと拾い上げられるようにすることが大切だそうで、倶知安厚生病院では、地域での問題は、まず地域連携室を通して相談する先などを調整した上で、総合診療科に連絡が入る流れにしています。

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採算性などに課題も

木佐先生に、今抱えている問題や課題について聞いてみると、色々あるそうですが、一番は採算性の問題だそうです。地域のために必要な総合診療を安定して提供するには医師や看護師などのスタッフが現在より必要ですが、どうしても今の診療報酬体系では経済的にはなかなか難しいといいます。

また、在宅医療にも問題を感じています。

「訪問診療は周辺の市町村の中で完結し、24時間体制で医療を提供するのが理想です。しかし現実的には、医師が1人や2人という町が多いので、そこでは24時間対応が難しい。そうすると自宅での看取りができない町がある」。

在宅医療の問題について、診療圏である羊蹄山麓7か町村で連携をとり、共通の仕組みを作ることができると良いのでしょうけれど、なかなか統一するのは難しいのだとか。

定着には地域の魅力づくりも大切な要素

倶知安町は国際的に有名なリゾート地。四季折々のまちとしての魅力が広く知られています。こうしたまちの魅力は、医師が定着するためにも欠かせない条件のようです。

「総合診療医の働く場所については、その地域をある程度気に入っている人のほうが、うまくいくと思います。当院の総合診療科に医師が来ている理由のひとつとして、ニセコに近いということ、ニセコの近くだから住んでみたいという取っ掛かりがあります。やはり、地域に魅力ができると人が集まりやすい。土地の魅力という要素も絡んでいるところがありますね」。

他にも、医師を定着させるには、総合診療医に限らない事かもしれませんが、拠点となる医療機関にある程度の医師がまとまってもらい、そこを拠点に周辺の診療をバックアップする体制をつくることが、現実的ではないかと、木佐先生は教えてくれました。

総合診療医を目指す医師へ伝えたいこと

総合診療医は、一言でいえば医者らしい医者
小さいときに思い描いていた医師像に、一番近いかなと思う
そういう気持ちを大事にしてもらったらいいんじゃないかな

最後に、木佐先生に「教育」についてお聞きし、総合診療医を目指す若手の医師へのメッセージもいただきました。

若手の医師に伝えている3つのポイント

若手の医師に指導していることの中で、木佐先生が考える総合診療医としてのポイントは3つあります。

1つ目はいきなり検査に飛びつくのではなく、患者さんの話を聞いてある程度臨床推論し、病気の可能性を絞ってから検査をする、基本的な診療のやり方をおさえながらやるということ。

2つ目は患者さんや家族の意向を大事にする。病気のことだけではなく、患者さんや家族が社会的に置かれた状況を考えて結論を決めるということ。

3つ目は地域の特性を踏まえること。

簡単なようで実践すると難しい3つ目のポイントですが、木佐先生は、大事な点として次のような例を挙げて説明してくれました。

「都市部と郡部とでは少し事情が違いますが、『大きい病院で治療を受けたい』という患者さんの要望があるときに、あまり当院で治療をしすぎると搬送するタイミングを失うことがあります。患者さんの症状がある程度落ち着いた状態だとしても、もしかしたら集中治療室がある病院で治療した方が良いかもしれない場合に、ご家族が『もしそういう選択肢があるなら積極的に受けたい』という考えであれば早めに紹介するようにします。こういう地理的に置かれた特性を頭に入れる。この病院が置かれている状況も考慮に入れることも大事です」。

無理なく仕事ができるようにするための教育

木佐先生は、「総合診療医は特別な人がなるものではなくて、本来は地域のインフラのように、安定してなり手が出てきて、無理なく成長して、無理なく仕事ができる環境をつくる事が大切」といいます。

「我々は『振り返り』というのですが、何か気になった症例があったとき、そのケースからどういう教訓を導くのかというディスカッションをみんなでします。こういった状況でどう気付けばどのように対応できたのかという、知識そのものではなくて、考え方や対応の仕方に注目して振り返ることで、自分に知識がない幅広い問題がある患者さんが来たとしても、きちんと対応できる力を身に付ける事ができるんです」。

このようなノウハウを含めた形の勉強をしていけば、どこで働いても総合診療の仕事が無理なくできるのだとか。

総合診療医を目指す医師へのメッセージ

「『総合診療医』を一言でいえば医者らしい医者。小さいときに思い描いていた医師像に一番近いかなと思うので」。

そういう気持ちを大事にしていますと木佐先生。

「総合診療医の仕事は楽しいですよ」。

長い目で見ると得意分野ができるのは大切ですが、医者人生の最初のほうで偏り(不得意なところ)ができてしまうのはあまり良くないので、倶知安厚生病院のように様々なフィールドを経験でき、疾患に偏りが少ないというのは、研修医にとって良い学びの場なのだそうです。

「総合診療は幅広く診なければいけない分、“優秀な人でなければできない”と誤解している人、逆に“幅広く診ているから浅い診療になってしまう”という人もいます。けれども、最初は指導者についてしっかりと学べば、誰にでも無理なく仕事ができるので、安心して門をたたいてもらえるといいかなと思いますね」。

倶知安厚生病院のほかの医療スタッフのインタビューもご覧ください

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